エディンバラは美しい町であったが、それより十時間近いバス旅行だったのにたいくつ退屈しなかった。イギリスの田舎の風景に飽きることなく見入っていたものだ。エディンバラで印象的だったのは、エディンバラ城である。後はあまり印象に残っていない。スコットランドに一度来てみたかったのだが、エディンバラの町並みより、十時間の車窓の眺めの方が素晴らしかった。

この他、イギリスでいいと思ったところはソールズベリーである。ここの建物は、英国の初期のゴッシック調でまとめられ、いい町並みであった。さらに「地の果て」と名づけられているペンザンス。イングランド最西端のリゾート地として有名である。プリマスは港としてよく知られているが、ここもリゾート地として有名である。ウエールズの首都カーディフもなかなかの町並で、ロンドンから五時間はかかったと思うが、その道程も素晴らしかった。カーディフには古代ローマ時代の遺跡や中世の崩れかけた古城があり、カエルフィリー城は崩れかけた塔があり、塀に囲まれたなかなか美しい城だったと記憶している。

イギリスの話はこれぐらいで終わり、次はドイツ、オランダ、ベルギー、フランス、:と続いていく。

ドイツ
ドイツに旅立つ日がやって来た。ヒースロ空港へ向かう列車の中で、イギリスの風景を見ながら、いろいろな思いが頭をよぎった。ドイツという知らない土地へ行く不安、イギリスを離れる寂しさなど、感情が交じり合っていた。ドイツでの講師の仕事は断るつもりでいたので、ドイツでは旅行を楽しもうと決めていた。

イギリスにはもう一つ国際空港があるが、やはりメインはこのヒースロである。地下鉄を四十分も乗らないうちにヒースロ空港に到着してしまった。イギリスに来た時はもっと長かったように思えたが、今回は短く感じた。おそらく来るときは飛行機が遅れ、夜到着して、かなり不安な心理状態でいたから、四十分がその倍ぐらいに感じたのだろう。

空港に到着すると、どこの空港でそうだが、心に緊張感が漂う。飛行機に乗り初めの頃は、空港に必ず二時間前には着いていたが、次第に、三十分前ぐらいに行くようになった。空港への列車だから遅れなどないと考えてのことだが。とにかくヒースロ空港には三十分前に到着。自分の乗る飛行機(どこの会社の飛行機かは忘れてしまった)のカウンターを探し、搭乗手続きを済ませた。

係りの美しい女性に「十分前ですよ、楽しいご旅行を」と笑顔で言われ、いい気分で飛行機に乗り込んだ。私はドイツのフランクフルトまで何時間かかるか、事前に調べてなかったので、距離的には三時間ぐらいと思っていた。離陸して三十分、食事が出てきた。あまりに早い食事だと思ったが、食事を終え、十分もしないうちに、後十五分でフランクフルトに到着です、天候は快晴、気温何何、などのアナウンスがあり、周りの人達がざわめき始め、本やウオークマンなどをバッグにしまい込み始めた。



片道航空券に不安
そうこうしているとシートべルト着用のランプが灯り、ざわめきの中に緊張感が走った。しかし何一つトラブルもなく着陸した。私は右も左も分からないので、みんなが行く方へついて行った。どうにか自分のバッグを受け取ったのは、飛行機を降りてから三十分後であった。いつもよりは早く受け取れた。それから税関を通るのだが、私には一つ心配ごとがあった。それは、私が片道航空券しか持っていなかったからである。

どういうことかと言うと、アメリカやイギリスでもそうだが、観光目的で海外に行く時は、必ず往復航空券が必要である。もし勉強のためや仕事というのであれば、学生ビザや商業用ビザが発行され、これなら片道航空券でも入れてくれる。観光目的では往復航空券を持っていないと入国させてくれない。

そのことを出発当日に気づき、不安のまま飛行機に乗り込んだのである。入国を拒否されるのは必至だと不安を抱きながら、税関の長い列に並んだ。税関では日本のように細々と調べられることはなく、手際よく進み、ほんの十五分足らずで私の番になった。待った時間が短く、心の準備ができていなかった私は、心はおどおどしながら、顔は冷静さを装っていた。税関員は私のパスポートを開き、写真と私の顔を確認するため私をちらりと見た。目と目が合ったので、私はにこりとしたが、彼は無表情で、予定はと聞いた。 (つづく・感想文をお寄せ下さい)