ウイーン
ザルツブルグから三時間ほどかかった。車窓からの眺めが素晴らしく、時間など全く気にならなかった。ウィーンはオーストリアの首都という以外、私にはこれといった興味を引くものがあるところではなかった。ただ、オーストリアの旅行は、のどかで、自然にあふれ、牧歌的で、私はすっかり気に入ってしまった。それに加え、歴史を感じさせる建物、教会などがあり、また、整備されたスキー場も多く、スポーツ好きな私としては、この旅行以降、オーストリアは魅力溢れる国になった。

ウイーンに到着。ザルツブルグからやって来ると、西駅に着く。西駅はメインの駅ということもあり、とても大きく、旅行会社やりょうがい両替のための銀行がいく幾つかあった。さすがにヨーロッパらしい。
ウイーンではユースホステルに泊まろうと決めていたので、駅員にユースホステルへの道を尋ねた。初めの人は分からず、インホメイションセンターへ行けと言われ、そちらへ行った。すでに三人並んでいたが、十分もしないで私の番になり、用件を話した。係の女性は地図を出し、「ここから歩いて二十分、タクシーだと五分もかからない」と教えてくれた。地図を貰いながら、フランスでは英語が使えなかったことを思い出し、言葉の壁のなさに、胸をなで下ろした。

係りの女性に「日本人か」と聞かれ、「そうだ」と答えると、「日本人で貴方ほど英語を話せる人はいないね」と誉められた。さらにこの女性は、この三年の間に日本人の観光客が増えた。団体客から個人客まで様々だが、最近は女性の一人旅も多くなった、と話してくれた。そして「一人旅はいいが、もう少し、英語なり、訪問する国の言葉を勉強して来ないとね。それにしても貴方の英語は完璧だわ」と微笑んだ。オーストリアでも旅行中のトラブルが少なくなく、言葉が通じないために通訳派遣までしなければならないケースもあるとも言っていた。

男女連れに会う
用件は一分ほどで終わったが、五分ほど世間話をし、インホメイションセンターを離れた。するとそこに年は六十ぐらいの男性と二十五歳前後の女性が立っていた。日本人だなと思ったが、横を通り過ぎようとした。すると、男性が話かけてきた。「インホメイションセンターでの会話を聞いていて、日本人だと分かったから、声をかけさせてもらった」と言う。会話を途中から聞いたらしい。女性と目と目が合い、お互い軽く頭を下げた。物静かな女性という印象であった。男性が「宿を探しているんだが、君はどうするのかね」と聞かれ、「ウイーンのユースホステルは安いし、安全で、きれいだとガイドブックに載っていたので、そこに行こうと思います。ここから二十分ほどのところにある、と今確認し、地図も貰いました」と話すと、「わしらもそこにしようか」と女性に尋ね、女性は首を縦に振り0Kを出した。

初め二人を見た時、私は女性が男性の孫かと思ったが、そうではなく、彼女も駅で声をかけられたらしい。旅は道連れということになり、われわれ三人はユースホステルに向かい歩き始めた。感じのいい女性だったので、歩きながらしゃべっていたら、すぐにユースホステルに着いてしまった。その間、間隔を取り男性には気づかれないように、彼女に昼食でも、と誘ったら、快く応じてくれたのでラッキーと思った。お互いチェックインが終わり、それぞれの部屋に別れた。私は、一時間後の昼食の約束に浮き浮きしながらシャワーを浴び、コロンを手の平に二、三てき滴た垂らし、胸にたたいた。デート前の気分である。

五分前にノックの音がした。てっきり彼女(森さん)だと思い、ドアを開けると、例の男性である。彼女を誘って昼食を一緒にしよう、と言うではないか。私の一時間の浮き浮き気分が吹っ飛んでいった。彼女の部屋のドアをノックしても返事がなく、ロビーに行ったら彼女は待っていた。本当は私と二人だけで行くはずだったんだ、と心で男性にもんく文句を言いながら、笑顔を作っていた。

食事をしながら、お互いの自己紹介をした。驚いたことにその男性は中学の教員だった。二年前にて定年退職したという。その時は専門科目のことは聞かなかった。まさか英語を教えていたとは夢にも思わなかった。午後も行動が一緒になり、市内を歩き回った。男性(名前は忘れてしまった)は一生懸命になって道を尋ねていた。下手くそだったが、ゆっくり丁寧にしゃべっていた。おそらく、定年後にNHKの基礎英語でも聞いて、勉強したのだろうと想像していたら、ひょんなことから、その男性が英語を教えていたということが分かり、言葉がなかった。これ以上コメントすると英語教員を敵に回すことになるので、このぐらいにする。 (つづく・感想文をお寄せ下さい)