コンドームの自販機
二日目の夜、オーストリア国境に到着。一時間近く待ち、パスポートの手続きが始まった。ほとんどの人は二、三分で済んだが、二人がなかなか戻って来なかった。国境にはお土産屋とレストランがあったので、三十分の休憩を取ることになった。休憩が終わり、バスに戻っても、例の二人は戻っていなかった。運転手が、移民局の事務所にどうなっているのか聞きに行き、五分ほどして戻って来た。彼は二人の荷物を座席の上から下ろし、さらに、バスの横の部分を開け、奥の方から二人の大きな
カバンを取り出した。その時、移民局の事務所から二人が出て来て、自分のカバンを持ってユーゴスラビアの移民局へ連れて行かれてしまった。結局、この二人はオーストリアに入ることが出来なかったのである。

バスがオーストリアに入ると、谷間を縫うように進んで行った。約八時間でドイツ国境に到着した。てつづ手続きはごく簡単で、あっけなく終わった。出国、入国スタンプさえ押さなかった。いよいよドイツである。ドイツに入って一時間走り、休憩に入った。今までにないとても感じのよい、ログハウス風の休憩所だった。一時間休むと言うので食事をして、ドイツの新聞を読み(当時は英験二級程度のドイツ語の実力があった)、くつろいでいた。後十分で出発というところで、トイレに行った。すると同じような考えの人が多く、とても混んでいた。外にもトイレがあったのを思い出し、そちらの方に足を運んだ。誰もいなかったので、待たずに用を足すことができた。

手を洗い、テッシュッペーパーに手をのばすと、その横にもう一つ、自動販売機らしきものがあった。何の自動販売機か見ると、コンドームと書いてあるではないか。かなり英語に近いスペルなのですぐに分かった。まさかと思い、試しに買ってみた。
するとやはり正真正銘のコンドームであった。質は日本製のよりは悪く、アメリカ製よりはいいといったところだった(当時の話)。 ポルノ映画館にはよくエッチな写真などを売っている自動販売機があるのを見たことはある。しかし、公衆便所でコンドームの自動販売機を見るとは夢にも思わなかった。

運転手にその話をすると、それはエイズ対策らしい。ドイツは他の国と比べてエイズの感染者は少ないらしいが、スペイン、イタリア、ギリシアなどはかなり多く、ヨーロッパ諸国は行き来が自由だから、エイズも行き来する。その予防策としてコンドームの自動販売機が設けられているとのことだった。後で友達にもそのことを確かめたら、全く同じ答えが返って来た。次に止まった公衆便所にも、コンドームの自動販売機があったのは言うまでもない。

ドイツ
百キロ走行
アテネを発って四十七時間後にエッセンに到着した。
友達の家に三日滞在。以前にも書いたか、ハンブルグに友達がいる。彼に電話をすると、出張でケルンに来るという。エッセンからケルンまでは列車で約二十分である。ケルンで待ち合わせし、食事をすることになった。デュッセルドルフにいいレストランがあるというので、彼のベンツでアウトバーンを飛ばした。
アウトバーンはヒットラーの遺産と言われ、戦時中に滑走路になったので、幅の広い直線コースが多かったように思う。天気がいいせいか、景色がよく、家並みがまるでおとぎの国のような感じだった。十分ほど走った時、私はかなりスピードが出ていると思い、メーターを見ると、百三十マイルのメーターケージを振り切っている。時速二百キロ。私は一瞬ぞっとして、ドアのロックを確認した。

するとドアがロックされていない。あわててロックしようとすると、友人はロックをするなと言う。ドイツでは走行中、ドアをロックしないそうだ。なぜなら、事故に遭った時、脱出に時間がかかることが問題だからだ。もし、車のドアをロックしていて、事故に遭うと、運転手は生命を放棄したと見なされる。日本とは違う考えである。 (つづく・感想文をお寄せ下さい)