絨毯の押し売り
私が絨毯にはあまり興味がない、と言っているにもかかわらず、どんな色が好きか、どんな形がいいか、などと言い出し、つい私が答えると、店員が奥から自分の背たけ以上に大きい絨毯を運んで来て、店は絨毯だらけになってしまった。店員は汗だくだくで、息を切らしていた。大きいし、重いのである。一時間ほど交渉し、私がいくらか聞くと、電卓を持ち出し、二千五百とたたいた。そしてドルだよ、とつけ加えた。私が「高いね」と言うと、「日本で買えばこの二倍以上はする」とのこと。

この店で買った日本人のコメントが書いてある色紙のようなものを持ち出してきた。ある女性は二時間も粘られ、帰して貰えず、カードで買ってしまった、と書いていた。半分以上は苦情で、買っていなかった。おそらく店主は日本語の意味が分からず、いいことが書いてあると思っているらしい。しかもコメントの中に、「日本語の意味を聞かれるから、この店はすてき素敵だ、と書いてあると答えなさい」と書いてあった。さらに、この店に連れて来られた日本人は大半が宿を紹介した少年に連れて来られたはずだが、「宿の荷物にも気をつけなさい」とも書いてあった。

勿論私は買わなかったが、帰り際に白い色紙とペンを渡され、この店のいいことを書いてくれと言われた。ほら来た、と思った。色紙に「店の悪い点を書いて日本人の被害者をなくそう」というコメントがあったので、私は少年に宿を誘われ、この店に連れて来られたことを長々と綴った。アドバイスとして絨毯を出しそうになったら逃げるべし、とつけ加えた。ペンを置くと店主は、何と書いたか尋ねるので、「ここはいい店だ。絨毯も素晴らしいと書いた」と返答した。

トロイ
トロイ戦争のトロイの木馬はみんなも聞いたことがあるだろう。紀元前千二百年ごろ、約十年続いたというトロイ戦争。トロイは商業の中心地として栄えていたらしいが、繰り返された戦争で町が消滅してしまったという。
トロイには有名な木馬がある、と言うことだったので立ち寄ってみた。

トロイの木馬というのは、相手が勝利の行進をしている時、大きな木馬の中に隠れていた負け戦側の兵が飛び出し、油断していた敵をやっっける、という話で、トロイは木馬で有名になった。私はどんなに大きい木馬かと雨が降る中、見に行った。雨で客は私一人。料金を払い、百メートルほど歩くと、そこに木馬があった。全長十メートル程度なので数十人が乗ったらいっぱいになってしまう大きさでしかなかった。

私は、数百人は隠れることが出来る木馬、と考えていたのでがっかりした。この後、雨の中、遺跡が残っている公園を歩き回り、バス停に戻った。バスは二時間に一本で、次の発車まで三十分あった。近くのお土産屋に入り時間を潰すことにした。面白いおもちゃがあったので買おうと思い財布を開けると、思いがけず、日本円にして一万円ほどのギリシアのお金があることに気づいた。何気なく「ギリシアのお金は使えますか」と聞くと、「ギリシアのお金はクズ(英語でトラッシュ)だ」という、思いがけない返事にびっくりした。この後、銀行を回りギリシアのお金を交換しようとしたが、だめだった。政治的な理由で、トルコとギリシャは昔から仲がよくないことは知っていたが、これほどだとは思わなかった。

ちなみに、ギリシアに戻った時、トルコのお金が日本円にして三千円ほど残っていたので、銀行に行って交換しようとしたが、やはり換えてはくれなかった。ホテルの人に聞くと、ギリシアでもトルコのお金はクズだと言い、トルコのお金でお尻が拭ける、とまで言っていた。
 
トルコは過去、ヨーロッパの各地でやりたい放題のことをしたので、トルコ嫌いのヨーロッパ人が今だに少なくない。ところでトルコには親日家が多い。トルコは旧ソ連、現ロシアにいじめられた歴史があり、そのロシアをにちろ日露せんそう戦争で日本が痛めつけたから、トルコ人の心の中に日本人への感謝の気持ちが残っているというわけだ。

私はトルコを旅行して、親トルコ派になった。人々は優しいし歴史的遺産も素晴らしい、物価が安いなどからだ。これで交通の便や治安がよくなれば、私は老後、トルコに住みたいぐらいである。 (つづく・感想文をお寄せ下さい)