第四章 日本に帰国
アルバイトをするために大学が夏休みに入り、ある程度勉強にも見通しがついたので、二年半ぶりに帰国することにした。私の大学はセメスター制(一年を二つに分け、取りたい学生だけ、夏休みの学期を取ればよい)を採用しており、しかもアメリカの大学の中で比較的夏休みが長く、約四ヵ月であり、、日本でアルバイトをした方が経済的だと考え、帰国することにした。それというのも、アメリカにいる一ヵ月分の生活費で、日本への往復航空券が買え、また、アルバイトの収入は日本の方がいいと考えたからである。

そして、日本の友達に何をお土産にしたらいいかを考えた。荷物にならず、値段も安い上にみんなに喜んで貰えるものをと、二日ほどあれこれ考えた。机の中の鉛筆を取り出そうとして、リップステックぐらいの大きさの、私が愛用している「鼻づまりの薬」が、引き出しからこぼれ落ちた。瞬間、「これだ」と思った。とても安いし、軽いし、かさばらない。それに加え何ったて、よく効くことである。

友達に勧められて使い始めたのだが、鼻づまりに効くのは勿論、眠気ざま覚しにもいい。薬であんなに効いたと感じたものは初めてである。その薬は薬局でなくともどこでも売っている品物であった。私は近くのセブンイレブンで十五個ほど購入した。これで友達へのお土産を手に入れることが出来た。だがその時、後に起こることを知るよしもなかった。

格安の航空券
アメリカで買う航空券は、シアトルー東京間が往復で四百ドルぐらいであった。当時一ドルは約二百二十円だったと思うから、ざっと日本円で八万円ということになる。その当時、日本で購入すると、東京ーシアトル間は十五万円ぐらいだったから、アメリカでは半値近い値段で買えることになる。そのため、日本にいる人が手紙でアメリカの旅行会社に、往復の航空券を注文するケースが増えたという。もしこの売買が盛んになると、日本の旅行会社の半分以上は潰れたかも知れない。

少し話が外れるが、ギリシアも格安チケットが手に入ることで有名である。私もギリシアで航空券を購入、シンガポール経由で日本に帰って来たことがあるが、四万円はかからなかったと記憶している。

ハワイに寄る
日本に帰る途中、ハワイに立ち寄ったことがある。数十ドル追加するだけでハワイに五日間ほど滞在できるというので、ハワイ経由で日本に帰って来たのだ。到着し、空は快晴、きれいな女性に首に花輪をかけて貰い、キスもされ、ハワイに来たことを実感した。しかしハワイで使えるお金の持ち合わせがなかったため、どこにも行けず、ワイキキで日光浴だけをしていた。そのワイキキでがっかりしたことがある。ワイキキというとイメージ的に若い女の子がたくさんいると思うが、実際は年輩の夫婦が三分の二を占めていた。日本人の女の子は案外多くいたけどね。

どこに行くこともなく、ただ五日間、ぶらっとしていただけだった。夜中歩いていると、あやしげな人が近寄って来て「日本人か」と聞く。「そうだ」と答えると、「マリファナを買わないか、安くしておくよ」と、勧める。いらないとはっきり断るとそれ以上つきまとわれることはなかった。また、ぶらぶら歩いていると、とてもきれいな女性が同じように声をかけてきた。「一晩百ドルでどう」と囁く。女優といっても差し支えないぐらいの美人だったので、心は大きく揺れたが、その時の百ドルは、後二日分の生活費だったから断った。あの時、もっとお金があったら多分…。

bucksはドル
ある夜、ネオンの中を歩いていると、信号のところで二人の日本人男性と美しい女性が話していた。信号ま待ちをしていた私の耳に、会話が聞こえた。女性が「How much bucks?」と、日本人男性二人に尋ねている。二人は、一人が五十歳前後。一人は二十五歳前後で、上司と部下という関係のようだった。若い方が「bucks(バックス)って何ですかね、箱っていう意味かなあ」と首を傾げた。

女性が「How much bucks?」とく繰り返した。二回目も理解できなかったようなので、そばにいた私が「bucksというのはドルという意味で、今どのくらいドルを持っているか尋ねているんです」と教えてあげた。するとその二人は、ああと声を漏らし、私に「どうも」と言った。 (つづく・感想文をお寄せ下さい)