日本ではちょっとした買い物の時、エンジンをかけっぱなしの車を見かけるが、アメリカでそんなことをすると「どうぞ盗んで下さい」と言うのと同じで、100%盗まれるそうだ。日本でも、これからは注意していくことにこしたことはない。

レストランでアルバイト
親との約束では、留学期間は一年だけだった。ところが偶然大学に入学出来たので、期間が延び、結局、アメリカに五年半いることになってしまった。そのため、生活費は勿論、学費などの資金稼ぎをしなければならなかった。日本レストランのアルバイトで、初めて皿洗いをしたが、洗い場に次々と持ち込まれる皿に、手を休める閑もなかった。とても辛かった。食事もほんの数分だけで、八時間フルに働かされた。しかし、いろいろ得るものも多かった。まず料理界の厳しさを、少しだけかいま見たような気がする。また夜の世界を冷静な目で見ることができた。

アルバイトも一ヵ月が過ぎると、いろいろな料理を作らされた。初めはてんぷら作りを任された。えびを油の中に入れようとして、自分の指も入れてしまい、五本の指の第一関節全てをやけどするという悲惨な出来事にも見舞われた。

労働は禁止
ところで私のような外国人学生は、アメリカでは働くことが禁止されている。だから私も含めほとんどの学生は不法で働いていた。捕まって、運が悪ければ強制送還されるケースさえあるとのことだった。そしてそうなると、自分は勿論、子供の代まで、アメリカには入国できないという話である。私は運よく見つからなかったが、一度だけ危機一髪に直面したことがあった。

日本のレストラン同士は知り合いだから、移民局の係官が調べに来ると、すぐに連絡が入る。ところがある時、私の働いているレストランに、係官が抜打ちでやって来た。アルバイトの人間(私を含め二人)はすぐに隠れた。突然のことで冷静に隠れ場所を探すことが出来なかった私は、ウエイトレスの一人に勧められるままに、女子トイレの屋根裏に隠れた。

私もそのウエイトレスも、移民局の係官は、いつものように二十分ほどで引き上げる、と思っていた。ところがその日に限り、彼らは食事を摂り始めたのである。二時間近くも居座っていたため、私は長時間、女子トイレの屋根裏で息をひそめていた。当然、トイレを使用する女性が入って来る。ここで初めて覗きを経験することになった。心臓が破裂しそうなぐらいの緊張と興奮が、同時に私を襲った。

客の少ない日だったこともあり、覗いたのはほんの五人であった。申し訳ないという気持ちと、凄い美人でも入って来ないかなという、いやらしい気持ちが交差する、自分の新たな面を発見した。ただ幸いにその後、変な癖が出ることはなく今日まできているが、人間は分からないもので、「覗き」を趣味にしている人の気持ちが少し理解できたように思う。が、これは当然犯罪こうい行為なので、そんなことで人生を棒に振るようなことはしないにこしたことはない。

レストランでセックス
レストランでアルバイトしている時、こういうこともあった。私がウエイトレスに頼まれ座敷を掃除していて、女性のパンティーを発見した。ウエイトレスに報告したら、ごくまれだが、そういうことがある、とのことだった。

アメリカ人は畳を見て欲情する人がいる、と言うのだ。われわれ日本人には理解できないことだろう。そんな話をしているところに、六十歳ぐらいでかなりベテランのウエイトレスがやって来て話に加わり、面白い話をした。

かなり前になるらしいが、二十歳前後のカップルが二人用の座敷に上がり、かなり高いコース料理を注文した。そして料理をほとんど出し終わり、ウエイトレスが「ご用がおありでしたら呼んで下さい」と声をかけ離れようとすると、カップルの男が「僕達はゆっくり料理を楽しむつもりだから一時間ぐらいほっといて下さい」と五ドルのチップをくれた。そのウエイトレスはその時、おかしいとは思わなかったらしい。

三十分ほどして、別の個室の客の料理を運び終わり、若いカップルの個室の前を通ると、女の微かな苦しむような声が聞えた。その声がどこでしているのか聞き耳を立てると、その部屋であった。そこでウエイトレスは「どうかしましたか」と声をかけてふすまを開けると、何と二人は真っ裸になってセックスをしていたという。ウエイトレスは予期せぬものを見て、頭の中は真っ白状態になり、腰を抜かしてしまった、と熱弁をふるった。そのことがあってから、ほんの少しだけふすまを開けたままにしておくそうだ。(つづく・感想文をお寄せ下さい)