キミさんが亡くなったことを、すぐ手紙でアメリカに知らせた。彼女の住所も添えた。何人かは帰国の際に線香を上げに行ったらしい。心から冥福を祈りたい。あれから今日まで数年が経った。線香を上げに行きたい気持ちはあるのだが、旦那さんと話すことを考えると気が重くなり、その後足を運んでいない。

第六章 人種差別
中曽根首相の発言

ここで私がアメリカの大学三年生のころの出来事を書いてみたい。まずわが国に関すること。当時、日本の首相は中曽根さんであった。何かの講演会で彼が、日本人はとても知的水準が高いが、アフリカ系アメリカ人やスペイン語を話す人達は、知的水準が低いという内容の話をした。そのことがアメリカで問題となり、私のアメリカ人の友人が私のところに飛んで来て、怒った口調で「お前の国の首相は何を考えているんだ。

あんなことを言うなんて」と、私に食ってかかった。話を聞いてみると、中曽根さんの人種によって高低があるとする知的水準発言のことらしい。私は「その発言を直接聞いたわけではないから、何とも言えないよ」と答えてその場は逃げたが、彼の怒り様は異常に思えた。後で分かったのだが、彼はメキシコ系アメリカ人であった。ついでに、日本の政治家などの人間に対する差別発言について、私が記憶する限りを書いてみたい。

新宿が人種のるつぼ
梶山法務大臣(当時)の「悪貨が良貨を駆逐(くちく)すると言うが、アメリカに黒が入って白が追い出されたように、新宿が人種の混住地になっている」とする発言。これは新宿・歌舞伎町周辺に、アジア系の人が増えていることに対する発言であった。法務大臣は「悪貨というのは売春という行為、不法滞在者であるということを指したもの」と釈明したが、黒人を悪貨に例えるなど、明らかに人種差別発言であり、また不法滞在者とは言え、アジア系外国人労働者に対し、けいし軽視感情を持った発言であると、私はかいしゃく解釈する。

渡辺自民党政調会長(当時)の「黒人は倒産してもアッケラカンとしている」との発言。衆議院安全保障特別委員会の席で、フセイン大統領のことを「一種奇形児的指導者」と発言した伊藤慶一氏。確かにフセイン大統領は、国際的に批判を受けた人だけにいろいろ言われるだろうが、奇形児的という言葉が、身体障害者に対する否定的な評価を伴うものと受け取られた。

法務省人権実務研究会出版の書物の中の「精神異常者でなければ恐れることはない」などの記述も、それなら精神異常者は恐れなければならないのか、と問題になってきた。そして、桜内衆議院長(当時)の「アメリカの労働者の質は悪い」との発言。さらに、かつて宮沢総理が「アメリカは勤労の倫理を失った」と発言した問題は、アメリカから大きな顰蹙を買った。

私がざっと覚えているだけを上げてみた。私がアメリカにいた時、中曽根発言で、友達から責められたが、他の日本人留学生も同じだったと思う。日本が世界の注目を集め始めてから、日本の政治家の発言は、日本のどこで発言しても、すぐ世界の各地に伝わってしまう。梶山発言は黒人の反発をかなり買い、日本大使館前のデモにまで発展した。

何万という人の代表であるのだから、立派でなくてはならないはずの存在なのに、常識以下のことを平気で言ってしまう政治家。私には彼らの真意がどこにあるのか理解できない。一流といわれる大学を卒業し、エリートと呼ばれている人が多いはずなのに、政治家のこれまでの発言を思い起こすと、人間的に悲しくなる。そしてこのような発言は、日本人留学生を肩身の狭い思いにさせる。

黒人も人種差別
もう一つ付け加えて言いたいことがある。黒人に対する梶山発言にからめ述べさせて貰いたい。梶山発言で黒人が日本大使館前でデモ抗議をして、退陣を要求した。確かに私も梶山発言には納得がいかないし、悲しい発言ではある。しかし、私はアメリカの黒人に少し言いたいことがある。黒人も人種差別をしている、ということである。

彼ら黒人はアメリカ国内で差別を受けている。しかし、彼ら黒人もまた他の人種を差別しているのである。例えば日本人に対してだが、私は何度か黒人に「ジャップ」と蔑みを持った言葉を投げつけられたことがある。(つづく・感想文をお寄せ下さい)