免税店での買い物
何度か、友達を見送りや迎えにシアトルの空港まで行った。その時の話である。時間があるので免税店に足を運んだ。そこは日本人専用の店かと思えるほど、日本人だらけだった。私が初めてアメリカに渡った時、空港内に日本語のアナウンスは一切なかったし、税関を通る時も日本人の係りの人は一人もいなかった。しかし、その二年後には日本語のアナウンスや日本人担当の係官が多く見られるようになった。

とにかくどこの免税店でも日本人観光客が多かった。勿論、免税店にいるのだから、何かを買うのだが、その買い方はアメリカ人店員が驚くほどなのである。日本人である私でさえ驚いてしまう。日本円で三十から五十万円もの買い物をしている人をたくさん見かけた。五十万円といえば、当時で約四千五百ドルである。アメリカの四千五百ドルの価値は、日本の五十万円とはわけが違う。約二倍近い価値があるのではないか。お土産などいろいろ買っているのだろうが、アメリカ人は、めんぜいてん免税店で五十万円も使うことなど信じられないと言う。

日本で買うより外国の免税店で買った方が安いということで、ここぞとばかりに買いあさるのだが、限度というものがあるだろうに…。私が見た日本人は、財布から現金で六千五百ドルも出していた。アメリカ人は現金を持たない主義だから、私の友人は、目ん玉が飛び出たという表情で見ていた。旅行に関して全く無知としか言いようがない行動である。アメリカ人は、持っていく現金は最低限に押え、カードか、小切手に似ていて、本人のサインが無ければ使うことができない、仮に落としたとしても安心なトラベラーズチェックを持参する。

買ったものを運べと要求
まあ、とにかく日本はいきなり金持ちになったから、お金の本当の価値を理解していないのではないかと思うことがある。そして、お金を出せばある程度の無理が通るという、傲慢な考えを持っている日本人観光客が少なくない。

ある時、免税店で約三千ドル相当のお土産品を買った日本人夫婦を見た。その人達は「これだけ買ったんだから、この品物を飛行機に積んで貰いたい」と店員に要求していた。確かに、二人で飛行機乗場まで運ぶには三回ぐらい往復しなければならないほどの荷物だ。

しかも、免税店から乗場まで片道百メートル以上はあるから、その夫婦にとっては大変なことであろう。それにしても、免税店の店員に「どうにかならないか」とお願いするのならいいが、要求のしかた仕方が気に入らない。こんなに買ったんだから、お前達はこれを運んで行くのが当然だ、という言い方をしたのだ。そばて聞いていた私は本当に恥ずかしかった。

どういうふうに答えるかと聞き耳を立てていると、店員のアメリカ人は「そのようなシステムは取っておりません」と一言、返事をしただけだった。予想もしていなかった答えに、その日本人夫婦は一瞬言葉がなかった。日本ではお客様は神様です、ということになるが、アメリカでは、お客様にもお客様の礼儀や常識がなければならないと考える。私もこの考えに大賛成である。日本では客に対してサービスが過剰だと思う。だからそのように外国でも要求してしまう。

一瞬言葉がなかった夫婦は気を取り直し、また傲慢に要求し始めた。困り果てたアメリカ人店員は、マネジャーに駆け寄って行った。その人は日系人らしく、少しだが日本語が話せるようだった。結局、数人の店員が、品物を運ぶのを手伝うことで決着がついた。あのアメリカ人の店員は、決していい印象を持たなかっただろうし、呆れ果てた顔が印象的であった。大人の図体をして子供のようなおねだりをする日本人、と感じたのではないだろうか。

それから半年ぐらい経ってから、またその免税店に行く機会があった。すると店員には日本人の女性が三人ほど加わっており、荷物は店の方で飛行機まで運び、客が荷物を受け取るのは成田空港で、というサービスを始めていた。アメリカのことではないが、イギリスで有名な二階建の市内観光バスでも、日本語でいろいろ案内がされるようになった。後に、私が二ヵ月半旅して回ったヨーロッパのほとんどの国で日本人に出会ったし、案内も日本語が使われているところが多かった。これも世界一の金持ちの国がなせる技なのだろう。以前、アメリカやイギリスがそうであったように。

ただ私は、日本ではお客様は神様です、という風潮があるが、アメリカではそれがなさ過ぎる面はあると思う。足して二で割れれば一番いいのだろうが。 (つづく・感想文をお寄せ下さい)